水でしょう」妻は舷側《ふなばた》の水を両手に掬《すく》い上げて川を讃《ほ》める。鶴子が真似《まね》る。
平等院《びょうどういん》の岸近く細長い島がある。浮島と云うそうだ。島を蔽《おお》う枯葭《かれよし》の中から十三層の石輪塔《せきりんとう》が見える。
「あの塔は何かね、先には見かけなかった様だが」
「近頃掘り出したンどす。宝塔《ほうとう》たら云うてナ、あんたはん」
と船頭が説明する。水は早し、川幅《かわはば》は一丁には越えぬ。惜しと思うまに渡してしまって、舟は平等院|上手《かみて》の岸についた。
舟賃《ふなちん》を払うて、其処《そこ》に三つ四つ設けられた茶店の前を過ぎて、美《うつく》しい紅葉を拾《ひろ》いつゝ余等は平等院に入った。
[#改ページ]
嫩草山の夕
奈良は奠都《てんと》千百年祭で、町は球燈《きゅうとう》、見せ物、人の顔と声とで一ぱいであった。往年《おうねん》泊《とま》った猿沢池《さるさわのいけ》の三景楼に往ったら、主が変《かわ》って、名も新猫館《しんねこかん》と妙なものに化《ば》けて居る。うんざりしたが、思い直して、こゝに車を下りた。
茶一|碗《わん》
前へ
次へ
全684ページ中679ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング