《くれ》に平潟の宿に帰った。湯はぬるく、便所はむさく、魚は鮮《あたら》しいが料理がまずくて腥《なまぐさ》く、水を飲もうとすれば潟臭《かたくさ》く、加之《しかも》夥《おびただ》しい蚊《か》が真黒《まっくろ》にたかる。早々《そうそう》蚊帳《かや》に逃《に》げ込《こ》むと、夜半《よなか》に雨が降り出して、頭《あたま》の上に漏《も》って来るので、遽《あわ》てゝ床《とこ》を移《うつ》すなど、わびしい旅の第一夜であった。
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      浅虫

 九月九日から十二日まで、奥州《おうしゅう》浅虫《あさむし》温泉|滞留《たいりゅう》。
 背後《うしろ》を青森行の汽車が通る。枕《まくら》の下で、陸奥湾《むつわん》の緑玉潮《りょくぎょくちょう》がぴた/\言《ものい》う。西には青森の人煙|指《ゆびさ》す可く、其|背《うしろ》に津軽《つがる》富士の岩木山が小さく見えて居る。
 青森から芸妓連《げいしゃづれ》の遊客が歌うて曰く、一夜《いちや》添《そ》うてもチマはチマ。
 五歳《いつつ》の鶴子初めて鴎《かもめ》を見て曰く、阿母《おかあさん》、白い烏《からす》が飛んで居るわねえ。
 旅泊《りょはく》の
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