五六百年の物では無い。松の外に格別古い物はない。石碑は嘉永《かえい》のものである。茶屋《ちゃや》がけがしてあるが、夏過ぎた今日、もとより遊人《ゆうじん》の影も無く、茶博士《さはかせ》も居ない。弓弭《ゆはず》の清水《しみず》を掬《むす》んで、弓かけ松の下に立って眺める。西《にし》は重畳《ちょうじょう》たる磐城の山に雲霧《くもきり》白く渦《うず》まいて流れて居る。東は太平洋、雲間《くもま》漏《も》る夕日の鈍《にぶ》い光《ひかり》を浮べて唯とろりとして居る。鰹舟《かつおぶね》の櫓拍子《ろびょうし》が仄《ほの》かに聞こえる。昔奥州へ通う浜街道は、此山の上を通ったのか。八幡太郎も花吹雪《はなふぶき》の中を馬で此処《ここ》を通ったのか。歌は残って、関の址と云う程の址はなく、松風《まつかぜ》ばかり颯々《さっさつ》と吟《ぎん》じて居る。人の世の千年は実に造作《ぞうさ》もなく過ぎて了う。茫然《ぼうぜん》と立って居ると、苅草《かりくさ》を背《せ》一《いっ》ぱいにゆりかけた馬を追うて、若い百姓《ひゃくしょう》が二人峠の方から下りて来て、余等の前を通って、また向《むこう》の峰《みね》へ上って往った。
 日の暮
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