した。今とても同然です。私は土を愛し、田舎を愛し、土の人なる農を愛しますが、私の愛は都市にも海にもあらゆる人間と其|営《いとな》みとを忘るゝ事は出来ません。私は慾張りです。私は一切を愛します。総《そう》じて血のめぐりの好い生体《せいたい》は健全です。病は偏《へん》です。不仁が病です。脳貧血のわるいは、脳充血のわるいに劣りません。私共の農村移住は随分吾儘な不徹底なものでしたが、それですら都鄙の間に通う血の一縷《いちる》となったと思えば、自ら慰むるところがあります。「みみずのたはこと」は自嘲気分を帯びた未熟な産物ですが、大正二年以来十年間に版を改むる百〇七、拾余万部を売り尽し、私共の耳目に触るゝ反響から見るも、農村を自愛させ、すべてに農村を愛さす上に幾分の効があったと知る事は、私共にとって大なる悦喜であります。
 私も以前は農村に住んで農になり切れず、周囲に同化しきれぬきまり悪さを「美的百姓」などと自から茶かして居ました。然し其|懊悩《おうのう》はもう脱《ぬ》けました。私共は粕谷に腰を据えました。私共は農村に骨を埋《うず》めます。然し私共は所謂農ではありません、私共の鍬はペンです。土は米麦
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