が清《す》んだのでいさゝか慰めた。農家は毎夜風呂を立てる。彼等も成る可く立てた。最初寒い内は土間に立てた。水をかい込むのが面倒で、一週間も沸《わ》かしては入《はい》り沸かしては入りした。五日目位からは銭湯の仕舞湯以上に臭くなり、風呂の底がぬる/\になった。それでも入らぬよりましと笑って、我慢《がまん》して入った。夏になってから外で立てた。井《いど》も近くなったので、水は日毎に新にした。青天井《あおてんじょう》の下の風呂は全く爽々《せいせい》して好い。「行水《ぎょうずい》の捨て処なし虫の声」虫の音《ね》に囲まれて、月を見ながら悠々と風呂に浸《つか》る時、彼等は田園生活を祝した。時々雨が降《ふ》り出すと、傘をさして入ったり、海水帽をかぶって入ったりした。夏休《なつやすみ》に逗留に来て居る娘なども、キャッ/\笑い興《きょう》じて傘風呂《からかさぶろ》に入った。

       四

 彼等が東京から越して来た時、麦はまだ六七寸、雲雀の歌も渋りがちで、赤裸な雑木林の梢《こずえ》から真白《まっしろ》な富士を見て居た武蔵野《むさしの》は、裸から若葉、若葉から青葉、青葉から五彩美しい秋の錦となり、移
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