た赤松の枝から、時々サッと雪の滝《たき》が落ちる。
「今夜も降りますよ」
斯く云いすてゝ妻は鶴子と立って往った。
余は風雪の音を聞き/\仕事をつゞける。一枚も書くと、最早《もう》書く文字がおぼろになった。余はペンを拭《ふ》いて、立って障子をあけた。
蒼白《あおじろ》い雪の黄昏《たそがれ》である。眼の届く限り、耳の届く限り、人通りもない、物音もしない。唯雪が霏々《ひひ》また霏々と限りもなく降って居る。良《やや》久《ひさ》しく眺める。不図|縁先《えんさき》を黒い物が通ると思うたら、其《それ》は先月来余の家に入込んで居る風来犬《ふうらいいぬ》であった。まだ小供※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]した耳の大きな牝犬《めいぬ》で、何処から如何《どう》して来たか知らぬが、勝手にありついて、追えども逐えども去ろうともせぬ。余の家には雌雄《しゆう》二|疋《ひき》の犬が居るので、此上牝犬を飼うも厄介である。わざ/\人を頼んで、玉川向うへ捨てさせた。すると翌日ひょっくり帰って来た。汽車に乗せたらと謂《い》って、荻窪《おぎくぼ》から汽車で吉祥寺《きちじょうじ》に送って、林の中に
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