ふりょうけん》をしちゃいかんぞ。俺《わし》に相談をして呉れんか」
 声をかけて置いて、熟《じっ》と聞き耳を立てたが、吾声《わがこえ》の攪乱《かきみだ》した雑木山の静寂《せいじゃく》はもとに復《か》えって、落葉《おちば》一つがさとも云わぬ。霜を含んだ夜気《やき》は池の水の様に凝《こ》って、上半部を蝕《く》い欠《か》いた様な片破《かたわ》れ月が、裸《はだか》になった雑木の梢《こずえ》に蒼白く光って居る。
 立とまっては耳を傾《かたむ》け、答《こたえ》なき声を空林《くうりん》にかけたりして、到頭甲州街道に出た。一廻りして、今度は雑木山の東側の径《こみち》を取って返した。提灯は径を歩かして、余は月の光《あかり》を便りに今一度疑問の林に分け入った。株立になった雑木は皆|落葉《おちば》して、林の中は月明《つきあかり》でほの白い。櫟《くぬぎ》から楢《なら》と眼をつけ、がさ/\と吾が踏《ふ》み分くる足下《あしもと》の落葉にも気をつけ、木を掘ったあとの窪《くぼみ》を注視し、時々立止って耳を澄ました。
 居《い》ない。終に何者も居ない。土の下も黙《だま》って居る。
[#地から3字上げ](明治四十二年 十二
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