も畑も所有地全部|買収地《ばいしゅうち》の真中《まんなか》に取こめられ、仮令《たとい》収用法《しゅうようほう》の適用が出来ぬとしても、もし唯一人売らぬとなれば袋《ふくろ》の鼠《ねずみ》の如く出口をふさがれるし、売るとなれば一寸の土も残らず渡して去らねばならぬので、最初から非常に憂惧《ゆうぐ》し、殆《ほとん》ど仕事も手につかず、昨日|訪《た》ずねて来た時もオド/\した斯老人の容子は余の心《むね》を傷《いた》ましめた。今其畑に来て見れば、直ぐ隣の畑には爺さんを追い払う云わば敵の展望台があたりを睥睨《へいげい》して立って居る。爺さんは昼は其望台の蔭で畑打ち、夜は望台の夢に魘《おそ》わるゝことであろう。爺さんの寿命を日々《にちにち》夜々《やや》に縮《ちぢ》めつゝあるものは、斯展望台である。余は爺さんに目礼して、展望台の立つ隣の畑に往った。茶《ちゃ》と桑《くわ》と二方を劃《しき》った畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄《しゅろなわ》素縄《すなわ》で丸太《まるた》をからげ組み立てた十数間の高櫓《たかやぐら》に人は居なかった。余は上ろうか上るまいかと踟※[#「足へん+厨」、第3水準1−92−39]《
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