「え、彼《あの》道路からずっとなんですよ。彼処《あすこ》に旗《はた》が立ってますだ」
 成程余が書窓《しょそう》から此頃常に見る旗と同じ紅白染分の旗が、路傍の松の梢《こずえ》にヒラヒラして居る。東北の方にも見える。彼《あの》旗が敗北の白旗《しろはた》に変らなかったなら、此夫婦は来年此処で甘藷を掘ることは出来ぬのである。
 余は麦畑に踏込む犬を叱《しか》り、道草《みちくさ》摘《つ》む女児を促《うなが》し、品川堀に沿うて北へ行く。路傍《みちばた》の尾花は霜枯れて、かさ/\鳴って居る。丁度《ちょうど》七年前の此月である。余は妻と此《この》世《よ》の住家《すみか》を探《さ》がして、東京から歩いて千歳村に来た。而して丁度其日の夕方に、疲《つか》れた足を曳《ひ》きずって、正に此路を通って甲州街道に出たのであった。夕日の残る枯尾花《かれおばな》、何処《どこ》やらに鳴く夕鴉《ゆうがらす》の声も、いとどさすらえ人の感を深くし、余も妻も唯|黙《だま》って歩いた。我儕《われら》の行衛は何処《どこ》に落ちつくのであろう? 余等は各自《てんで》に斯く案じた。余は一個の浮浪《ふろう》書生《しょせい》、筆一本あ
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