ねば土地収用法を適用するまでの事だ、電鉄の手で買えば一反五百七十円から五百五十円までゞ買うが、土地収用法がものを云えば一反三百円か高くても三百五十円は越《こ》さない、其《それ》でも好《よ》いか、好ければ今に見ろ。斯様《こん》な調子でのしかゝって来た。
 売る者は売れ、俺等《おいら》は売らぬ、と澄《す》まして居た反対|側《がわ》の人達も、流石《さすが》に怒《おこ》り出した。腰弁当、提灯持参、草鞋《わらじ》がけの運動がはじまった。村会に向って、墓地《ぼち》排斥《はいせき》の決議を促す申請書を出す。村会に於てはまた、大多数を以て墓地排斥の建議案を通過するぞと意気込《いきご》む。それから連判《れんぱん》の陳情書を東京府庁へ出すとて余にも村民の一人として賛成を求めて来た。昨朝の事である。

       下

 今日《きょう》余は女児と三疋の犬とを連れて、柿を給田《きゅうでん》に買うべく出かけた。薄曇りした晩秋の寂しい午後である。
 品川堀に沿うて北へ歩《あゆ》む。昨日連判状を持って来た仲間《なかま》の一人が、かみさんと甘藷《さつま》を掘って居る。
「此処《ここ》らも予定地《よていち》の内ですか
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