しい長文句で喚《わめ》き立てゝ大騒《おおさわ》ぎしたものだ。
東京客が沢山《たくさん》来た。新聞雑誌の記者がよく田園生活の種取《たねと》りに来た。遠足半分《えんそくはんぶん》の学生も来た。演説依頼の紳士《しんし》も来た。労働最中に洋服でも着た立派な東京紳士が来ると、彼は頗得意であった。村人の居合わす処で其紳士が丁寧に挨拶《あいさつ》でもすると、彼はます/\得意であった。彼は好んで斯様な都の客にブッキラ棒の剣突《けんつく》を喰《く》わした。芝居気《しばいげ》も衒気《げんき》も彼には沢山にあった。華美《はで》の中に華美を得|為《せ》ぬ彼は渋い中に華美をやった。彼は自己の為に田園生活をやって居るのか、抑《そもそ》もまた人の為に田園生活の芝居をやって居るのか、分からぬ日があった。小《ちい》さな草屋のぬれ縁《えん》に立って、田圃《たんぼ》を見渡す時、彼は本郷座《ほんごうざ》の舞台から桟敷や土間を見渡す様な気がして、ふッと噴《ふ》き出す事さえもあった。彼は一時片時も吾を忘れ得なかった。趣味から道楽から百姓をする彼は、自己の天職が見ることと感ずる事と而して其れを報告するにあることを須臾《しゅゆ》も
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