たかと夫人に問い、夫人が渡しましたと答えた事、夫人は通読し終って、著者は一度も材料の為に訪われもしなかったに、よくも斯く精確《せいかく》に書かれた、と云われた事、を聞いた。精確な筈《はず》だ、記憶の好《い》い本人良平が命《いのち》がけで書いたのである。余は将軍夫妻の感想を聞く機会を有《も》たなかった。然しながら寄生木を読んだ将軍夫妻は、生前《せいぜん》顔を合わすれば棒立《ぼうだち》に立ってよくは口もきけず、幼年学校でも士官学校でも学科はなまけ、病気ばかりして、晩年には殊に謀叛気《むほんぎ》を見せて、恩義を弁《わきま》えたらしくもなかった篠原良平が、案外深い感謝あり、理解あり、同情あり、而して個性あり、痛切な苦悶あり、要するに一個真面目の霊魂《れいこん》であったことを今更の様に発見したであろう。兎に角篠原良平の死と「寄生木」とが、寂《さび》しい将軍の晩年に於てまた一の慰藉《いしゃ》となったことは、察《さっ》するに難からぬ。篠原良平が「寄生木」を遺《のこ》した目的の一は達せられたのである。
余は篠原良平の晩年に於て、剣を抛《なげう》つ可く彼に勧告し、彼を乃木将軍から奪《うば》う可く多少の
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