ある。昨秋の麦蒔《むぎまき》に馬糞《ばふん》を基肥《もとごえ》に使った。其れが世田ヶ谷騎兵聯隊から持って来た新しい馬糞で、官馬の事だから馬が食ってまだよく消化《しょうか》しない燕麦《えんばく》が多量に雑《まじ》って居た。総じて新しい肥料はよくないものだが、自家《うち》には堆肥《たいひ》の用意がない為に、拠所《よんどころ》なく新しい馬糞に過燐酸《かりんさん》を混じて使った。麦が生《は》えると同時に、馬糞の中の燕麦が生えた。麦が伸《の》びると、燕麦も伸びた。燕麦は麦より強い。麦に追肥《おいごえ》をやると、燕麦が勝手に吸《す》ってしまってドン/\生長する。麦畑《むぎばた》が一面燕麦の畑の様になった。非常な手数をかけて一々燕麦をぬいたが、最早《もう》肝腎《かんじん》の麦は燕麦に負けて其《その》穂《ほ》は痩《や》せこけたものになって居た。肥料が肥料を食ってしまったのである。世には斯様《こん》な事が沢山ある。
トルストイの遺著《いちょ》の中、英訳になった劇「生《い》ける屍《しかばね》」を読む。トルストイ化した「イナック、アヽデン」と云う様なものだ。「暗黒《あんこく》の力《ちから》」程の力は無いが
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