な羅馬の文明を鉄蹄《てってい》に蹂躙《じゅうりん》した北狄《ほくてき》蛮人である。一切の作為《さくい》文明《ぶんめい》は、彼等の前に灰の如く消えて了う。
土を穿ち、土を移し、土を平《な》らし、土を積む。彼等は工兵の蟻《あり》である。同じ土に仕事する者でも、農は蚯蚓《みみず》である。蚯蚓は蟻を恐れる。
有つ者にとっては、有たぬ者程恐ろしい者は無い。土方人足の村で恐れられるも尤《もっとも》である。然しながら何ものも有たぬ彼等も、まだ生命《いのち》と云うものを有って居る。彼等は生命を惜《おし》む。此れが彼等の弱点である。有たずに強い彼等も、有てば弱くなる虞《おそれ》がある。世にも恐ろしい者は、其生命さえも惜まぬのみか、如何なる条件をもって往っても妥協《だきょう》の望がない人々である。彼等は何ものを有っても満足せぬ。彼等は全宇宙《ぜんうちゅう》を吾有《わがもの》にしなければ満足せぬ。寧《むしろ》吾を全宇宙に与えなければ満足せぬ。其一切を獲ん為には、有てる一切を捨《す》てゝ了う位は何でもない。耶蘇も仏陀《ぶつだ》も斯恐ろしい人達である。
[#地から3字上げ](明治四十五年 七月十三日)
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