かはだか》の英雄である、原人《げんじん》である。彼等は元来裸である。何ものも有《も》たない。有たないから失うことが出来ない。失うものがないから、彼等は恐るゝことを知らぬ。生存競争の戦闘《たたかい》に於て、彼等は常に寄手《よせて》である。唯進んで撃《う》ち而して取ればよいのである。守ると云うは、有つ者の事である。守ると云うは、已に其第一歩に於て敗北《はいぼく》である。
 世には有たぬ程強い事はない。有たぬ者は、すべてのものを有つのである。彼等には明日は無い。昨日も無い。唯今日がある、刹那《せつな》がある。彼等は神を恐れない。王者《おうしゃ》を恐れない。名聞《みょうもん》を思わない。彼等は失うべき富もない。愛《おし》む可き家族も無い。彼等は其れより以下に落つ可き何等の位置も有たない。国家か、何ものぞ。法律か、何の関係ぞ。習慣《しゅうかん》、何の束縛《そくばく》ぞ。彼等は胃の命令と、腸《ちょう》の法律と、皮膚《ひふ》の要求と、舌頭の指揮と、生殖器の催促《さいそく》の外、何の縛《しば》らるゝ処がない。彼等は自然力其ものである。一触《いっしょく》してタイタニックを沈めた氷山である。華麗《かれい》
前へ 次へ
全684ページ中523ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング