度洋で死んだ。原著者のツルゲーネフは夙《とう》に死んだ。然しルヂンは生きて居る。ナタリーも生きて居る。アレキサンドラも、ビカソーフも、バンタレフスキーもワルインツオフも生きて居る。
 人生短、芸術千古。
[#地から3字上げ](明治四十二年 六月十五日)
[#改ページ]

     田圃の簑笠

 朝から驟雨性《しゅううせい》の雨がざあと降って来たり、繊《ほそ》い雨が煙ったり、蛞蝓《なめくじ》が縁に上り、井戸|縁《ぶち》に黄な菌《きのこ》が生《は》えて、畳の上に居ても腹の底まで滲《し》み通りそうな湿《しめ》っぽい日。
 今日も庭の百日紅《さるすべり》の梢に蛇が居る。何処かの杉の森で梟《ふくろ》がごろ/\咽《のど》を鳴らして居る。麦が収められて、緑暗い村々に、微《すこ》しの明るさを見せるのは卵色の栗の花である。
 蛙の声の間々《あいあい》に、たぶ/\、じゃぶ/\田圃に響《おと》がする。見れば簑笠《みのかさ》がいくつも田に働いて居る。遠く見れば水戸様の饌《ぜん》にのりそうな農人形が、膝まで泥に踏み込んで、柄の長い馬鍬《まんが》を泥に打込んでは曳《えい》やっと捏《こ》ね、また打込んでは曳やっと
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