3字上げ](明治四十五年 六月十日)
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ムロのおかみ
目籠《めかご》を背負《せお》って、ムロのおかみが自然薯《じねんじょ》を売りに来た。一本三銭宛で六本買う。十五銭に負《ま》けろと云うたら、それではこれが飲《の》めぬと、左の手で猪口《ちょこ》をこさえ、口にあてがって見せた。
ムロのおかみは酒が好きである。
ムロのおかみは近村《きんそん》の者である。夫婦はもと兄の家のムロに住んで居たので、今も「ムロ」さん/\と呼ばれて居る。夫婦して一《ひと》つコップから好きな酒を飲み合い、暫時《しばし》も離れぬので、一名|鴛鴦《おし》の称がある。夫婦は農家の出だが、別に耕《たがや》す可き田畑も有《も》たぬ。自然薯でも、田螺《たにし》でも、鰌《どじょう》でも、終始|他人《ひと》の山林田畑からとって来ては金に換《か》え、飯《めし》に換え、酒に換える。門松すら剪《き》って売ると云う評判がある。村に行わるゝ自然《しぜん》の不文律《ふぶんりつ》で、相応な家計《くらし》を立てゝ居る者が他人の櫟《くぬぎ》の枝一つ折っても由々敷《ゆゆしい》咎《とが》になるが、貧しい者は些《ちっと》やそ
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