しがみ》が三人並んで居る。二人は心を空《そら》にして呂昇の方を見入って居る。一人の金縁眼鏡には露が光って居る。日の若い単純《たんじゅん》な代《よ》も、複雑な今日も、根本《こんぽん》の人情に差違はない。唯真故新《ただしんゆえにしん》、古い芸術も新しい耳によく解せられるのである。
猿廻《さるまわ》しに来た。此は呂昇の柄《がら》にも無いし、連れ弾もまずいし、大隈《おおすみ》を聞いた耳には、無論物足らぬ。と思いつゝ、十数年前の歌舞伎座《かぶきざ》が不図眼の前に浮んだ。ぽっと鬘《かつら》をかぶった故人菊五郎の与次郎が、本物の猿を廻わしあぐんで、長い杖《つえ》で、それ立つのだ、それ辞義《じぎ》だと、己《わ》が物好きから舞台面の大切《たいせつ》な情味を散々に打壊《ぶちこわ》して居る。今の梅幸の栄三郎のお俊が、美しい顔に涙はなくて今にも吹き出しそうにして居る。故人片市の婆《ばあ》さんと、故人菊之助の伝兵衛が独《ひとり》神妙《しんみょう》にお婆さんになり伝兵衛になって舞台を締《し》めて居る。余は菊之助が好きだった。彼が真面目《まじめ》な努力の芸術は、若いながらも立派なものであった。彼は自身がする程の役
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