《しゃ》に構え、さっさと語り出した。咽喉《のど》をいためて療治《りょうじ》中だと云うに、相変らず美しい声である。少しは加減して居る様だが、調子に乗ると吾を忘れて声帯《せいたい》が震《ふる》うらしい。語り出しは、今少しだ。鳥辺山《とりべやま》は矢張好かった。灯影《ほかげ》明るい祇園町の夜、線香の煙《けぶり》絶々《たえだえ》の鳥辺山、二十一と十七、黒と紫とに包まれた美しい若い男女が、美しい呂昇の声に乗ってさながら眼の前に踊《おど》った。お俊《しゅん》のさわりはます/\好い。呂昇が堀川のお俊や、酒屋のお園や、壺坂《つぼさか》のお里を語るは、自己を其人に托《たく》するのだ。同じ様な上方女《かみがたおんな》、同じ様な気質《きだて》の女、芸と人とがピッタリ合うて居るのだ。悪かろう筈がない。呂昇が彼美しい声で語り出す美しい女性《にょしょう》の魂《たましい》は、舞台のノラ[#「ノラ」に傍線]を見たり机の上の青鞜《せいとう》を読んだりする娘達に、如何様《どん》な印象《いんしょう》を与うるであろうか。余は見廻わした。直ぐ隣の腰かけに、水際立《みずぎわた》ってすっきりとした装《なり》をした十八九の庇髪《ひさ
前へ 次へ
全684ページ中513ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング