知らぬが、中央会堂はほゞ一ぱいになって居た。演壇では、筒袖《つつそで》の少年が薩摩《さつま》琵琶《びわ》を弾《ひ》いて居た。凜々《りり》しくて好い。次ぎは呂昇の弟子の朝顔日記浜松小屋。まだ根から子供だ。其れから三曲《さんきょく》合奏《がっそう》の熊野《ゆや》。椅子にかけての琴、三絃《さみせん》は、見るにあぶなく、弾きにくゝはあるまいかと思われた。三曲|済《す》んで休憩《きゅうけい》になった。
 九時二十分頃、呂昇が出て来て金屏風《きんびょうぶ》の前の見台《けんだい》に低頭《ていとう》した。連《つ》れ弾《びき》は弟子の昇華《しょうか》。二人共時候にふさわしい白地に太い黒横縞《くろよこしま》段だらの肩衣《かたぎぬ》を着て居る。有楽座で初めて中将姫を聞いた時よりヨリ若く今宵《こよい》は見えた。場内は一ぱいになった。頭の禿《は》げた相場師らしいのや、瀟洒《しょうしゃ》とした服装《なり》の若い紳士や、涼《すず》しく装うた庇髪《ひさしがみ》、皆呂昇の聴者《ききて》である。場所柄に頓着《とんじゃく》なく、しっかり頼みますぞ、など声をかける者がある。それを笑う声も起った。
 呂昇は無頓着に三絃取って斜
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