中央会堂で呂昇の堀川がある。蓄音器では、耳にタコの出来る程|鳥辺山《とりべやま》も聞いて居る。生《しょう》の声で呂昇の堀川は未だ聞かぬ。咽喉《のど》が悪いとて療治をして居ると云うが如何だろう、と好奇心も手伝うて、午後|独歩《どっぽ》荻窪《おぎくぼ》停車場《すてえしょん》さして出かける。
 デカが跟《つ》いて来る。ピンは一昨夜子を生んだので、隣家《となり》の前まで見送って、御免を蒙《こうむ》った。朝来の雨は止んで、日が出たが、田圃はまだ路が悪い。田植時《たうえどき》も近いので、何《ど》の田も生温《なまぬる》い水満々と湛《たた》え、短冊形《たんざくがた》の苗代は緑の嫩葉《わかば》の勢揃《せいぞろ》い美しく、一寸其上にころげて見たい様だ。泥《どろ》の楽人《がくじん》蛙の歌が両耳に溢《あふ》れる。甲州街道を北へ突切《つっき》って行く。大麦は苅られ、小麦は少し色づき、馬鈴薯や甘藷《さつまいも》、草箒《くさほうき》などが黒い土を彩《いろ》どって居る。其間を太《ふと》いはりがねを背負って二本ずつ並んで西から北東へ無作法《ぶさほう》に走って居るのが、東京電燈の電柱である。一部を赤く塗《ぬ》って、大きな
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