い若葉をつけ出した。此頃は毎日|掃《は》いても掃いても樫の古葉が落ちる。
 気軽《きがる》な落葉木の若葉も美しいが、重々しい常緑樹の柄《がら》にない嫩《やわら》かな若葉をつけた処も中々好い。ゆさ/\と嫩《やわ》らかな食《く》えそうな若葉をかぶった白樫《しらかし》の瑞枝《みずえ》、杉は灰緑《かいりょく》の海藻《かいそう》めいた新芽《しんめ》を簇立《むらだ》て、赤松《あかまつ》は赭《あか》く黒松《くろまつ》は白っぽい小蝋燭《ころうそく》の様な心芽《しんめ》をつい/\と枝の梢毎《うらごと》に立て、竹はまた「暮春には春服已に成る」と云った様に譬《たと》え様もない鮮《あざ》やかな明るい緑の簑《みの》をふっさりとかぶって、何れを見ても眼の喜《よろこび》である。
 今夜はじめて蚊《か》が一つぶゥんと唸《うな》った。
「蚊一つに寝《ね》られぬ宵《よひ》や春の暮」
 春は最早《もう》暮るゝのである。
[#地から3字上げ](明治四十五年 五月二十六日)
[#改ページ]

     首夏

 先日七の家《うち》から茄子苗《なすなえ》を買ったら、今朝七の母者《ははじゃ》がわざ/\茄子の安否《あんぴ》を見に来た
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