三十分で来た。父が「一家鶏犬一車上、器機妙用瞬間行」なぞ悪詩《あくし》を作った。工合《ぐあい》が好いので、帰りも自動車にした。今度のは些《ちと》大きく、宅の傍《そば》までは来ぬと云う。五丁程歩んで、乗った。栗梅色《くりうめいろ》に塗《ぬ》った真新《まあたら》しい箱馬車式《はこばしゃしき》の立派なものだ。米国から一昨日着いたばかり、全速《ぜんそく》五十|哩《まいる》、六千円出たそうだ。父、母、姉、妻、女は硝子戸《がらすど》の内に、余は運転手《うんてんしゅ》と並んで運転手台に腰かけた。
運転手の手にハンドルが一寸|捩《ねじ》られると、物珍らしさにたかる村の子供の群《むれ》を離《はな》れて、自動車はふわりと滑《すべ》り出した。村路《そんろ》を出ぬけて青山街道に出る。識《し》る顔の右から左から見る中を、余は少しは得意に、多くは羞明《まぶ》しそうに、眼を開けたりつぶったりして馳《は》せて行く。坂を下って、田圃《たんぼ》を通って、坂を上って、車は次第に速力を出した。荷車が驚いて道側《みちばた》の草中《くさなか》に避《よ》ける。鶏《にわとり》が刮々《くわっくわっ》叫んで忙《あわ》てゝ遁《に》げる。
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