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印度洋
夜、新聞で見ると、長谷川《はせがわ》二葉亭《ふたばてい》氏が肺病で露西亜から帰国の船中、コロムボ[#「コロムボ」に二重傍線]と新嘉坡《シンガポール》の間で死んだとある。去十日の事。
馬琴物《ばきんもの》から雪中梅型《せっちゅうばいがた》のガラクタ小説に耽溺《たんでき》して居た余に、「浮雲《うきぐも》」は何たる驚駭《おどろき》であったろう。余ははじめて人間の解剖室《かいぼうしつ》に引ずり込まれたかの如く、メスの様な其|筆尖《ふでさき》が唯恐ろしかった。それからツルゲーネフの翻訳「あひゞき」を国民の友で、「めぐりあひ」を都の花で見た時、余は世にも斯様《こん》な美しい世界があるかと嘆息した。繰《く》り返えし読んで足らず、手ずから写《うつ》したものだ。其後「血笑記《けっしょうき》」を除く外、翻訳物は大抵見た。「其《その》面影《おもかげ》」はあまり面白いとも思わなかった。「平凡《へいぼん》」は新聞で半分から先きを見た。浮雲の筆は枯《か》れきって、ぱっちり眼を開いた五十男の皮肉《ひにく》と鋭利《えいり》と、醒《さ》めきった人のさびしさが犇々《ひしひし》と胸に迫《
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