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     紫雲英

 午後の散歩に一家|打連《うちつ》れて八幡山《はちまんやま》、北沢間《きたざわかん》の田圃《たんぼ》に往った。紫雲英《れんげそう》の花盛りである。
 此処は西|欝々《うつうつ》とした杉山《すぎやま》と、東|若々《わかわか》とした雑木山《ぞうきやま》の緑《みどり》に囲《かこ》まれた田圃で、遙《はるか》北手《きたて》に甲州街道が見えるが、豆人《とうじん》寸馬《すんば》遠く人生行路《じんせいこうろ》の図《ず》を見る様で、却《かえっ》てあたりの静《しず》けさを添《そ》える。主人と妻と女児《むすめ》と、田の畔《くろ》の鬼芝《おにしば》に腰を下ろして、持参《じさん》の林檎《りんご》を噛《かじ》った。背後《うしろ》には生温《なまぬる》い田川《たがわ》の水がちょろ/\流れて居る。前は畝《うね》から畝へ花毛氈《はなもうせん》を敷いた紫雲英の上に、春もやゝ暮近《くれちか》い五月の午後の日がゆたかに匂《にお》うて居る。ソヨ/\と西から風が来る。見るかぎり桃色《ももいろ》の漣《さざなみ》が立つ。白い蝶が二つもつれ合うてヒラ/\と舞うて居る。跟《つ》いて来た大きな犬のデカと小さなピン
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