が、蛙《かえる》を追ったり、何かフッ/\嗅《か》いだりして、面白そうに花の海を踏《ふ》み分けて、淡紅《とき》の中に凹《なかくぼ》い緑の線《すじ》をつける。熟々《つくづく》と見て居ると、紅《くれない》の歓楽《かんらく》の世に独《ひとり》聖者《せいじゃ》の寂《さび》しげな白い紫雲英が、彼所《かしこ》に一本、此処《ここ》に一|株《かぶ》、眼に立って見える。主人はやおら立って、野に置くべきを我庭に移《うつ》さんと白きを掘る。白い胸掛《むねかけ》をした鶴子は、寧《むしろ》其美しきを撰《えら》んで摘《つ》み且摘み、小さな手に持ち切れぬ程になったのを母の手に預《あず》けて、また盛に摘んで居る。
主人は田川の生温《なまぬる》い水で泥手《どろて》を洗って、鬼芝の畔に腰かけつゝ、紫雲英を摘む女児を眺めて居る。ぽか/\した暮春《ぼしゅん》の日光《ひざし》と、目に映《うつ》る紫雲英の温《あたた》かい色は、何時しか彼をうっとりと三十余年の昔に連れ帰るのであった。
時は明治十年である。彼は十歳の子供である。彼の郷里は西郷戦争の中心になった。父は祖父を護《ご》して遠方に避難《ひなん》し、兄は京都の英学校に居り、
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