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[#地から3字上げ](明治四十三年)
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ある夜
梅に晩《おそ》く桜に早い四月一日の事。
余は三時過ぎから、ある事の為にある若い婦人を伴うて、粕谷から高輪《たかなわ》に往った。午後の六時から十一時過ぎまで、ある家の主人を訪うてある事を弁じつゞけ、要領を得ずして其家を辞した時は、最早十二時近かった。それでも終電車に乗るを得て、婦人は三宅坂《みやけざか》で下りて所縁《しょえん》の家へ、余は青山で下りて兄の家に往った。
寝入り端《ばな》と見えて、門を敲《たた》けど呼べど叫べど醒めてくれぬ。つい近所に姪《めい》の家があるが、臨月近い彼女を驚かすのも面白くない。余は青山の通を御所《ごしょ》の方へあるいて、交番に巡査を見出し、其指図で北町裏の宿屋を一二軒敲き起した。寤めは寤たが、満員と体の好い嘘《うそ》を云って謝絶された。
電車はとくに寝に往って了った。夜が明けたら築地の病院に腫物《しゅもつ》を病《や》んで入院して居る父を見舞うつもりで、其れ迄新橋停車場の待合室にでも往って寝ようと、月明りと電燈瓦斯の光を踏んで、ぶら/\溜池の通を歩いて新橋に往った。往って見る
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