どの新芽《しんめ》は、とり/″\に花より美しい。
 畑に出て見る。唯《ただ》一叢《ひとむら》の黄なる菜花《なのはな》に、白い蝶が面白そうに飛んで居る。南の方を見ると、中っ原、廻沢《めぐりさわ》のあたり、桃の紅《くれない》は淡く、李は白く、北を見ると仁左衛門の大欅《おおけやき》が春の空を摩《な》でつゝ褐色《かっしょく》に煙《けぶ》って居る。
 春の日も午近くなれば、大分青んで来た芝生に新楓《しんふう》の影|繁《しげ》く、遊びくたびれて二《ふた》つ巴《ともえ》に寝て居る小さな母子《おやこ》の犬の黒光《くろびか》りする膚《はだ》の上に、桜《さくら》の花片《はなびら》が二つ三つほろ/\とこぼれる。風が吹く。木影《こかげ》が揺《うご》く。蛙が鳴く。一寸《ちょっと》耳をびちっと動かした母犬《おやいぬ》は、またスヤ/\と夢をつゞける。
 夕方は、まんまるな紅《あか》い日が、まんじりともせず悠々《ゆうゆう》と西に落ちて行く。横雲《よこぐも》が一寸|一刷毛《ひとはけ》日の真中を横に抹《なす》って、画にして見せる。最早《もう》穂《ほ》を孕《はら》んだ青麦《あおむぎ》が夕風にそよぐ。
 夜は蛙の声の白い月夜
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