きかいてき》に頁《ページ》を翻《ひるがえ》して居ると、ついつり込まれて読み入った。ふっと眼を上げると、向うには鶴子が櫓《やぐら》に突伏《つっぷ》して好い気もちにスヤ/\寝て居る。炬燵の上には、猫が咽《のど》も鳴《な》らさず巴形《ともえなり》に眠って居る。九時近い時計がカチ/\鳴る。台所では細君が皿《さら》の音をさして居る。
 茫々《ぼうぼう》たる過去と、漠々《ばくばく》たる未来の間に、斯《この》一瞬《いっしゅん》の現今は楽しい実在《じつざい》であろう。
 またさら/\と雪になった。
 余は多情多恨を読みつゞける。何と云うても名筆である。柳之助《りゅうのすけ》が亡妻《ぼうさい》の墓に雨がしょぼ/\降って居たと葉山《はやま》に語る条《くだり》を読むと、青山《あおやま》墓地《ぼち》にある春日《かすが》燈籠《とうろう》の立った紅葉山人《こうようさんじん》の墓が、突《つ》と眼の前に現《あら》われた。忽ち其墓の前に名刺《めいし》を置いて落涙《らくるい》する一|青年《せいねん》士官《しかん》の姿《すがた》が現われる。それは寄生木《やどりぎ》の原著者《げんちょしゃ》である。あゝ其青年士官――彼自身|最
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