する。勝手もとに荷を下ろした後《のち》は、失神した様に暫くは物も言われぬ。
早速右の肩が瘤《こぶ》の様に腫《は》れ上がる。明くる日は左の肩を使う。左は勝手《かって》が悪いが、痛い右よりまだ優《まし》と、左を使う。直ぐ左の肩が腫れる。両肩《りょうかた》の腫瘤《こぶ》で人間の駱駝が出来る。両方の肩に腫れられては、明日《あす》は何で担ごうやら。夢の中にも肩が痛い。また水汲みかと思うと、夜《よ》の明《あ》くるのが恨めしい。妻が見かねて小さな肩蒲団を作ってくれた。天秤棒《てんびんぼう》の下にはさんで出かける。少しは楽だが、矢張苦しい。田園生活もこれではやりきれぬ。全体《ぜんたい》誰に頼まれた訳でもなく、誰|誉《ほ》めてくれる訳でもなく、何を苦しんで斯様《こんな》事《こと》をするのか、と内々|愚痴《ぐち》をこぼしつゝ、必要に迫られては渋面《じゅうめん》作って朝々通う。度重《たびかさ》なれば、次第《しだい》に馴れて、肩の痛みも痛いながらに固まり、肩腰に多少|力《ちから》が出来《でき》、調子がとれてあまり水をこぼさぬ様になる。今日《きょう》は八分だ、今日は九分だ、と成績《せいせき》の進むが一の楽《た
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