角谷は手が器用《きよう》で、書籍の箱造り荷拵《にごしら》えなどがうまかった。職人になればよかった、と自身もしばしばこぼして居た。
 角谷は十九であった。店《みせ》は耶蘇教主義であるが、角谷は夜毎の家庭《かてい》祈祷会《きとうかい》などに出るのを厭《いや》がって居た。彼の本箱には、梅暦《うめごよみ》や日本訳のマウパッサン短篇集《たんぺんしゅう》が入って居た。
 謎《なぞ》は自《おの》ずから解ける。
 ヱデキンドが「春の目ざめ」のモリッツを想わずに居られぬ。

           *

 夜、外の闇から火光《あかり》を眼がけて猛烈にカナブンが飛んで来る。ばたンばたンと障子《しょうじ》にぶつかる音が、礫《つぶて》の様だ。掴《つか》んでは入れ、掴んでは入れして、サイダァの空瓶《あきびん》が忽一ぱいになった。
[#地から3字上げ](明治四十四年 八月二十二日)
[#改ページ]

     暁斎画譜

 重田《しげた》さんが立寄《たちよ》った。重田さんは隣字《となりあざ》の人で、気が少し変なのである。躁暴狂《そうぼうきょう》でもなく、憂欝狂《ゆううつきょう》と云う訳でもなく、唯家業の農を抛擲《ほ
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