包んだランプをかゝえて彼等に跟《つ》いて来た。
東京から引越《ひっこし》当座《とうざ》の彼等が態《ざま》は、笑止《しょうし》なものであった。昨今の知り合いの石山さんを除《のぞ》く外|知人《しりびと》とては素《もと》よりなく、何が何処にあるやら、何《ど》れを如何《どう》するものやら、何角《なにか》の様子は一切|分《わ》からず。狭《せま》いと汚穢《きたなさ》とは我慢するとしても、一《ひと》つ家《や》の寒さは猛烈《もうれつ》に彼等に肉迫《にくはく》した。二百万の人いきれで寄り合うて住む東京人は、人烟《じんえん》稀薄《きはく》な武蔵野の露骨《ろこつ》な寒さを想い見ることが出来ぬ。二月の末、三月の始、雲雀《ひばり》は鳴いて居たが、初めて田舎のあばら家《や》住居《ずまい》をする彼等は、大穴のあいた荒壁《あらかべ》、吹通しの床下《ゆかした》、建具《たてぐ》は不足し、ある建具は破《やぶ》れた此の野中の一つ家と云った様な小さな草葺《くさぶき》を目がけて日暮れ方《がた》から鉄桶《てっとう》の如く包囲《ほうい》しつゝずうと押寄《おしよ》せて来る武蔵野の寒《さむさ》を骨身《ほねみ》にしみて味《あじ》わった。
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