古《けいこ》して置きたいと云う。承知したら、彼女は喜んで日々|弁当持参《べんとうじさん》で高樹町から有楽町《ゆうらくちょう》のミシン教場《きょうじょう》へ通ったが、教場があまり騒々《そうぞう》しくて頭がのぼせるし、加上《そのうえ》ミシン台《だい》の数が少ないので、生徒間に競争が劇《はげ》しく、ズウズウしい女達《おんなたち》が順番《じゅんばん》になった彼女を押のけてミシンを占領したりするので、彼様《あん》な処へは最早《もう》行くのは嫌《いや》でござりますと云って、到頭《とうとう》女中専門になった。
 彼女が奉仕《ほうし》の天使の如く突然高樹町の家《うち》に現《あら》われてから六月目《むつきめ》に、主人夫婦は東京を引払うて田舎に移った。如何に貧乏な書生生活でも、東京で二十円の借家から六畳|二室《ふたま》の田舎《いなか》のあばら家への引越しは、人目《ひとめ》には可なりの零落《れいらく》であった。奉公人にはよい見切時《みきりどき》である。然しとめやは馴染《なじみ》もまだそれ程深くない主人夫婦を見捨てなかった。彼女は東京に居らねばならぬ身体《からだ》であったが、当分御手伝をすると云うて、風呂敷に
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