ゆうぐれ》に十勝《とかち》国境《こっきょう》の白茅《はくぼう》の山を石狩《いしかり》の方へと上《のぼ》った。此処の眺望《ながめ》は全国の線路に殆《ほと》んど無比である。越し方《かた》を顧《かえり》みれば、眼下《がんか》に展開する十勝の大平野《だいへいや》は、蒼茫《そうぼう》として唯|雲《くも》の如くまた海の如く、却《かえっ》て北東の方を望めば、黛色《たいしょく》の連山《れんざん》波濤《はとう》の如く起伏して居る。彼山々こそ北海道中心の大無人境を墻壁《しょうへき》の如く取囲《とりかこ》む山々である。関翁の心は彼の山々の中にあるのだ。余は窓に凭《よ》って久しく其方を眺めた。中に尤も東北の方に寄って一峯《いっぽう》特立《とくりつ》頗《すこぶる》異彩《いさい》ある山が見える。地理を案ずるに、キトウス山ではあるまいか。斗満川《とまむがわ》の水源、志ある人と共にうち越えて其山の月を東に眺めんと関翁が歌うたキトウス山ではあるまいか。関翁の心はとく彼山を越えて居る。然しながら翁も老齢《ろうれい》已に八十を越した。其身其心に随うて彼山を越ゆることが出来るや否や、疑問である。或は翁は摩西《モーゼ》の如く、
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