遙《はるか》に迦南《カナン》を望むことを許されて、入ることを許されずに終るかも知れぬ。然し翁の心は已にキトウス山を越えて居る。而して翁が百歳の後、其精神は後の若者の体《からだ》を仮《か》って復活し、必彼山を越え、必彼大無人境を拓《ひら》くであろう。汽車はます/\国境の山を上る。尾花に残る日影《ひかげ》は消え、蒼々《そうそう》と暮れ行く空に山々の影も没して了うた。余は猶《なお》窓に凭って眺める。突然白いものが目の前に閃《ひら》めく。はっと思って見れば、老木《ろうぼく》の梢《こずえ》である。年久しく風霜《ふうそう》と闘うて皮《かわ》は大部分|剥《は》げ、葉も落ちて、老骨《ろうこつ》稜々《りょうりょう》たる大蝦夷松《おおえぞまつ》が唯一つ峰に突立《つった》って居るのであった。
余の胸は一ぱいになった。
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君に別れ十勝の国の国境《くにざかひ》
今|越《こ》ゆるとてふりかへり見し
かへり見《み》れば十勝は雲になりにけり
心に響く斗満《とま》の川音《かはおと》
雲か山か夕霧《ゆふぎり》遠く隔《へだ》てにし
翁《おきな》が上《うへ》を神《かみ》護《まも
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