九|月《げつ》、処は北海山中の無人境、篝火《かがりび》を焚く霜夜の天幕、幕《まく》の外《そと》には立聴くアイヌ、幕の内には隼人《はやと》の薩摩《さつま》壮士《おのこ》が神来《しんらい》の興《きょう》まさに旺《おう》して、歌|断《た》ゆる時四絃続き、絃黙《げんもく》す時|声《こえ》謡《うた》い、果ては声音《せいおん》一斉《いっせい》に軒昂《けんこう》嗚咽《おえつ》して、加之《しかも》始終《しじゅう》斗満川《とまむがわ》の伴奏《ばんそう》。手を膝《ひざ》に眼を閉《と》じて聴く八十一の翁《おきな》をはじめ、皆我を忘れて、「戎衣《よろい》の袖《そで》をぬらし添《そ》うらん」と結びの一句|低《ひく》く咽《むせ》んで、四絃一|撥《ばつ》蕭然《しょうぜん》として曲《きょく》終るまで、息もつかなかった。讃辞《さんじ》謝辞《しゃじ》口を衝《つ》いて出る。天幕の外もさゞめいた。興《きょう》未だ尽きぬので、今一つ「墨絵《すみえ》」の曲を所望する。終って此|興趣《きょうしゅ》多い一日の記念に、手帳を出して関翁以下諸君の署名を求める。
 それから話聞くべくアイヌを呼んでもらう。御召《おめし》につれて髭顔《ひげが
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