思いかけぬ豪興《ごうきょう》である。弾手《ひきて》は林学士《りんがくし》が部下の塩田君《しおだくん》、鹿児島《かごしま》の壮士《そうし》。何をと問われて、取りあえず「城山《しろやま》」を所望《しょもう》する。今日《きょう》は九月二十七日、城山|没落《ぼつらく》は三十三年前の再昨日《さいさくじつ》であった。塩田君はやおら琵琶を抱《かか》え、眼を半眼《はんがん》に開いて、咳《がい》一咳。外は天幕総出で立聞く気はい。「夫《そ》れ――達人《たつじん》は――」声はいさゝか震《ふる》えて響きはじめた。余は瞑目《めいもく》して耳をすます。「大隅山《おおすみやま》の狩《かり》くらにィ――真如《しんにょ》の月《つき》の――」弾手は蕭々《しょうしょう》と歌いすゝむ。「何を怒《いか》るや怒《いか》り猪《い》の――俄《にわか》に激《げき》する数千|騎《き》」突如《とつじょ》として山|崩《くず》れ落つ鵯越《ひよどりごえ》の逆落《さかおと》し、四絃《しげん》を奔《はし》る撥音《ばちおと》急雨《きゅうう》の如く、呀《あっ》と思う間もなく身は悲壮《ひそう》渦中《かちゅう》に捲《ま》きこまれた。時は涼秋《りょうしゅう》
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