た。まさか忍び返えしのソギ竹を黒板塀の上に列べたり、煉瓦塀《れんがべい》上《うえ》に硝子の破片を剣の山と植《う》えたりはせぬつもりだが、何、程度《ていど》の問題だ、これで金でも出来たら案外|其様《そん》な事もやるであろうよ。
二
畑の物は可なり出来る。昨年は陸穂《おかぼ》の餅米が一俵程出来たので、自家で餅を舂いた。今年は大麦三俵|籾《もみ》で六円なにがしに売った。田園生活をはじめてこゝに六年、自家の作物が金になったのは、此れが皮切だ。去年は月に十日|宛《ずつ》きまった作男を入れたが、美的百姓と真物《ほんもの》の百姓とは反《そ》りが合わぬ所から半歳足らずで解雇《かいこ》してしまい、時々近所の人を傭ったり、毎日仕事に来る片眼のおかみを使って居る。自分も時々やる。少し労働をやめて居ると、手が直ぐ綺麗《きれい》になり、稀に肥桶を担《かつ》ぐと直ぐ肩が腫《は》れる。元来物事に極不熱心な男だが、其れでも年の功だね、畑仕事も少しは上手になった。最早《もう》地味《ちみ》に合わぬ球葱《たまねぎ》を無理に作ろうともせぬ。最早胡麻を逆につるして近所の笑草にもならぬ。甘藷苗の竪植《たてうえ
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