と彼に告げた。彼は又もや両手をついて、何も分からぬ者ですからよろしく、と挨拶する。
二十五六人も寄った。これで人数は揃ったのである。煙草《たばこ》の烟《けむり》。話声。彼真新しい欅の根株の火鉢を頻に撫でて色々に評価する手合《てあい》もある。米の値段の話から、六十近い矮《ちいさ》い真黒な剽軽《ひょうきん》な爺さんが、若かった頃米が廉《やす》かったことを話して、
「俺《わし》と卿《おまえ》は六合の米よ、早くイッショ(一緒《いっしょ》、一|升《しょう》)になれば好い」
なんか歌ったもンだ、と中音《ちゅうおん》に節《ふし》をつけて歌い且話して居る。
腰の腫物《はれもの》で座蒲団も無い板敷の長座は苦痛《くつう》の石山氏の注意で、雑談会《ざつだんかい》はやおら相談会に移った。慰兵会の出金問題《しゅっきんもんだい》、此は隣字から徴兵《ちょうへい》に出る時、此字から寸志を出す可きや否の問題である。馬鹿々々しいから出すまいと云う者もあったが、然し出して置かねば、此方から徴兵に出る時も貰う訳に行かぬから、結局出すと云う事に決する。
其れから衛生委員《えいせいいいん》の選挙、消防長の選挙がある。テー
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