あろうか。※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−10]別橋から瞰《なが》むる※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−10]別川の川床荒れて水の濁れるに引易《ひきか》え、斗満川の水の清さ。一個々玉を欺《あざむ》く礫《こいし》の上を琴の相の手弾く様な音立てゝ、金糸と閃めく日影《ひかげ》紊《みだ》して駛《はし》り行く水の清さは、まさしく溶けて流るゝ水晶である。「千代かけてそゝぎ清めん我心、斗満《とまむ》の水のあらん限りは」と翁の歌が出来たも尤である。貢君の話によれば、斗満川の水温は※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−14]別川の其れより三四度も低いそうな。人跡到らぬキトウス山の陰から来るのだ。然《さ》もあろう。今こそ駅逓には冬も氷らぬ清水《しみず》が山から引かれてあるが、まだ其等の設備もなかった頃、翁の灌水は夏はもとより冬も此斗満川でやったのだ。此斗満の清流が数尺の厚さに氷結した冬の暁、爛々たる曙の明星の光を踏んで、浴衣《ゆかた》一枚草履ばきで此川辺に下り立ち、斧《おの》で氷を打割って真裸に飛び込んだ老翁の姿を想い見ると、畏敬の情は自然に起る。
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