る。不図硝子窓から見ると、庭の楢の切株に綺麗《きれい》な縞栗鼠《しまりす》が来て悠々と遊んで居る。開けたと云っても、まだ/\山の中だ。
 四時過ぎになると、翁の部屋で謡がはじまった。「今を初の旅衣――」ポンと鼓が鳴る。高砂だ。謡も鼓もあまり上手とも思われぬが、毎日午後の四時に粥《かゆ》二椀を食って、然る後高砂一番を謡い、日が暮るゝと灌水《かんすい》して床に入るのが、翁の常例だそうな。
 夕飯から余等も台所の板敷で食わしてもらう。食後台所の大きな暖炉を囲んで、余作君片山君夫婦と話す。余作君は父翁の業を嗣いで医者となり、日露戦後|哈爾賓《ハルピン》で開業して居たが、此頃は牧場分担の為め呼ばれて父翁の許に帰って居る。片山君は紀州の人、もと北海道鉄道に奉職し、後関家に入って牧場の創業に当り、約十年斗満の山中に努力して、まだ東京の電車も知らぬと笑って居る。夫妻に子供が無い。少し痘痕《あばた》ある鳳眼にして長面の片山君は、銭函《ぜにばこ》の海岸で崖崩れの為死んだ愛犬の皮を胴着にしたのを被て、手細工らしい小箱から煙草をつまみ出しては長い煙管でふかしつゝ、悠然とストーブの側に胡踞《あぐら》かき、関翁が
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