わるゝを心《しん》から嫌って、目下場内の農家がまだ三四戸に過ぎぬのをいたく慙じ、各十町を所有する中等自作農をせめて百戸は場内に入るべく切望して居る。
午後アイヌが来たと呼ばれるので、台所に出て見る。アツシを着た四十左右の眼の鋭い黒髯《こくぜん》蓬々たる男が腰かけて居る。名はヱンデコ、翁の施療《せりょう》を受けに利別《としべつ》から来た患者の一人だ。此馬鹿野郎、何故《なぜ》もっと早く来ぬかと翁が叱る。アイヌはキマリ悪るそうに笑って居る。着物をぬいで御客様に毛だらけの膚《はだ》を見せろ、と翁が云う。体《からだ》が臭《くさ》いからとモジ/\するのを無理やりに帯解かせる。上半身が露《あら》われた。正に熊だ。腹毛《はらげ》胸毛《むなげ》はものかは、背の真中まで二寸ばかりの真黒な熊毛がもじゃ/\渦《うず》まいて居る。余も人並はずれて毛深い方だが、此アイヌに比べては、中々足下にも寄れぬ。熟々《つくづく》感嘆して見惚《みと》れる。翁は丁寧に診察を終って、白や紫沢山の薬瓶《やくびん》が並んだ次の間に調剤《ちょうざい》に入った。
河西支庁の測量技手が人夫を連れて宿泊に来たので、余等は翁の隣室の六畳に移
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