年九月二十四日、網走《あばしり》線が※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−289−15]別まで開通した開通式の翌々日である。
 今にはじめぬ鉄道の幻術《げんじゅつ》、此正月まで草葺の小屋一軒しかなかったと聞く※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−290−1]別に、最早《もう》人家が百戸近く、旅館の三軒料理屋が大小五軒も出来て居る。開通即下のごったかえす※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−290−2]別館の片隅で、祝《いわい》の赤飯で夕飯を済まし、人夫の一人に当年五歳の女児鶴、一人に荷物を負ってもらい、余等夫婦洋傘を翳《さ》してあとにつき、斗満《とまむ》の関牧場さして出かける。
 新開町《しんかいまち》の雑沓を後にして、道は直ぐ西に蒼《あお》い黄昏《たそがれ》の煙《けむり》に入った。やがて橋を渡る。※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−290−5]別橋である。開通を当に入り込んだ人間が多く仕事が無くて困ると云う人夫の話《はなし》を聞きながら、滑りがちな爪先上りの路を、懐中電燈の光に照らして行く。雨は止《や》んで、日はとっぷり暮れた。不図耳に入るものがある
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