て居る位で、此富豪翁も子女の教育には余程身を入れて居るのであった。
 障子に日がさして来た。障子を明けると、青空に映《うつ》る花ざかりの大きな白木蓮《はくもくれん》が、夜来の風雨に落花狼藉、満庭雪を舗《し》いて居る。推参の客は主翁に対して久しぶりに嘘《うそ》と云うものを吐《つ》いた。彼は葛城家の使者だと云うた。お馨さんを将来葛城勝郎の妻に呉れと云うた。旅費学資は一切葛城家から出すによって、お馨さんを米国へ遣ってくれと云うた。学校は師範学校見た様なもので、育児衛生を旨とすると云うた。主翁は逐一聞いた上で、煙管《きせる》をポンと灰吹《はいふき》にはたき、十二三の召使の男児《おのこ》を呼んで御寮様《ごりょうさま》に一寸御出と云え、と命じた。やがてお馨さんの母者人が出て来た。よくお馨さんに肖て居る。十一人の子供を育て、恐ろしい吾儘者《わがままもの》の良人に仕えて、しっかり家を圧《おさ》えて行く婦人の尋常の婦人であるまいと云う事は、葛城家の偽使者も久しく想う処であった。主翁は今一応先刻の御話をと云うた。似而非《えせ》使者《ししゃ》は、試験さるゝ学生の如く、真赤な嘘を真顔で繰り返えした。母者人は顔
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