の筋一つ動かさず聴いて居た。主翁は兎も角|忰《せがれ》や親戚の者共とも相談の上追って御返事すると云うた。「|六ヶ敷《むつかし》いな」彼は斯く思いつゝ帰途に就いた。
 然しながら天はお馨さんに味方するかと思われた。彼女の父は意外にも承諾を与えた。旅券も手に入った。而《そう》して葛城が米国へ向け乗船した二年と三月目の明治四十二年の七月六日、横浜出帆の信濃丸で米国に向うた。葛城の姉、お馨さんの長兄夫婦、末の兄、お馨さんによく肖た妹達は、桟橋《さんばし》でお馨さんを見送った。粕谷の夫妻も見送り人の中にあった。妹達は涙を流して居た。水草の裾模様《すそもよう》をつけた空色《そらいろ》絽《ろ》のお馨さんは、同行の若い婦人と信濃丸の甲板から笑みて一同を見て居た。彼女は涙を堕《おと》し得なかった。其心はとく米国に飛んで居るのであった。船はやおら桟橋を離れた。空色《そらいろ》衣《ぎぬ》の笑貌《えがお》の花嫁は、白い手巾《はんかち》を振り/\視界の外に消えた。

       六

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乗船いたしましてから五日目になりますが、幸に海は非常に静かで……友人と同室で御座いますから心配もなく、
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