向うの小山を其まゝ庭にして、蘇鉄《そてつ》を植えたり、石段を甃《たた》んだり、石燈籠を据えたりしてある。下駄突かけて、裏の方に廻って見ると、小山の裾《すそ》を鬼の窟《いわや》の如く刳《く》りぬいた物置がある。家は茅葺《かやぶき》ながら岩畳《がんじょう》な構えで、一切の模様が岩倉《いわくら》と云う其姓にふさわしい。まだ可なり吹き降《ぶ》りの中を、お馨さんによく似《に》た十四五、十一二の少女が、片手に足駄を提《さ》げ、頭から肩掛《しょうる》をかぶり、跣足《はだし》で小学校に出かけて行く。座敷に帰って、昼の光であらためて主翁《しゅおう》と対面した。住居にふさわしい岩畳なかっぷくである。左の目が眇《すがめ》かと思うたら、其れは眼の皮がたるんでいるのであった。其れが一見人を馬鹿にした様に見える。芳野金陵の門人で、漢学の素養がある。其父なる人は、灌漑用の潴水池《ちょすいち》を設けて、四辺《あたり》に恩沢を施して居る。お馨さんの父者人は、十六にして父に死なれ、一代にして巨万の富をなした。六十爺の今日も、名ある博士の弁護士などを顧問に、万事自身で切って廻わして居る。此辺は数名の博士、数十名の学士を出し
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