勧めた。然しお馨さんは如何しても思い止まることが出来なかった。それに、日本に愚図々々《ぐずぐず》して居れば、心に染《そ》まぬ結婚を父に強《し》いられる恐れがあった。
斯様な事情と彼女の切なる心情を見聞する粕谷の夫妻は、打捨てゝ置く訳に行かなかった。葛城が家族の反対に関せず、何を措いても彼女の父の結婚及渡米の許諾を獲べく、単刀直入|桶狭間《おけはざま》の本陣に斬込まねばならぬと考えた。
五
朧月《おぼろづき》の夜、葛城家の使者と偽《いつわ》る彼は、房総線《ぼうそうせん》の一駅で下りて、車に乗ってお馨さんの家に往った。長い田舎町をぬけて、田圃《たんぼ》沿いの街道を小一里も行って、田中路を小山の中に入って、其山ふところの行止《ゆきどま》りが其家であった。大きな長屋門の傍の潜《くぐ》りを入って、勝手口から名刺を出した。色の褪《さ》めた黒紋付の羽織を着た素足《すあし》の大きな六十爺さんが出て来た。お馨さんの父者人《ててじゃひと》であった。
其夜は烈しい風雨であった。十二畳の座敷に寝かされた彼は、夢を結び得なかった。明くる早々起きて雨戸をあけて見た。庭には大きな泉水を掘り、
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