、彼女自身の鍛錬《たんれん》の為にも、至極好い思立《おもいたち》と看《み》たのである。彼女は葛城の渡米当時已に自身も渡米す可く身を悶《もだ》えたが、父の反対によって是非なく思い止まったのであった。
 米国からは、あまり乗気でもないが、来るなら紐育《ニューヨーク》ブルックリンの看護婦学校に口があると知らして来た。彼女の師外川先生も、自身|新英蘭《ニューイングランド》で一時|白痴院《はくちいん》の看護手をしたことがあると云うて、彼女の渡米に賛同した。お馨さんは母の愛女であった。母は愛女の為に其望を遂げさすべく骨折る事を諾《だく》した。彼女の長兄は、其母を悦ばす可く陰に陽に骨折る事を妹に約した。残る所は彼女の父の承諾だけであった。彼女の父は田舎の平相国《へいしょうこく》清盛《きよもり》として、其小帝国内に猛威を振うている。彼女と葛城の縁談《えんだん》も、中に立って色々骨折る人があったが、彼女の父は断じて許さなかった。葛城の人物よりも其無資産を慮《おもんぱか》ったのである。葛城の母、兄姉も皆お馨さんの渡米には不賛成であった。葛城の勉強の邪魔になると謂うた。静かにこゝで勉強して葛城の帰朝を待てと
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