て居る。メェフラワァは故国との最後の連鎖《れんさ》である。メェフラワァの去ると共に故国の縁《えん》は切れるのである。なつかしい過去、旧世界、故国、歴史、一切の記念、其等との連鎖は、彼《かの》船脚《ふなあし》の一歩※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]に切れて行くのである。彼等の胸は痛み、眼には涙が宿って居るに違いない。然しながら彼等は若い。彼等は新しい大陸に足を立てゝ居る。彼等の過去は、彼船と共に夢と消ゆる共、彼等の現在は荒寥《こうりょう》であるとも、彼等は洋々《ようよう》たる未来を代表して居る。彼等は新世界のアダム、イヴである。
此の画を見る毎《たび》に、彼はお馨《けい》さんと其恋人|葛城《かつらぎ》勝郎《かつお》を憶《おも》い出さぬことは無い。
三
葛城は九州の士の家の三男に生れた。海軍機関学校に居る頃から、彼は外川先生に私淑《ししゅく》して基督を信じ、他の進級、出世、肉の快楽《けらく》にあこがるゝ同窓青年の中にありて、彼は祈祷《きとう》し、断食《だんじき》し、読書し、瞑想《めいそう》する青年であった。日露戦争に機関少尉として出陣した彼は
前へ
次へ
全684ページ中333ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング