われてならなかったのである。梁川君が死ぬ、其様《そん》な事はあまり彼の考には入って居なかった。一枚の黒枠《くろわく》のはがきは警策の如く彼が頭上に落ちた。「死ぬぞ」と其はがきは彼の耳もとに叫んだ。
*
梁川君の葬式は、秋雨の瀟々《しとしと》と降る日であった。彼は高足駄をはいて、粕谷から本郷教会に往った。教会は一ぱいであった。やがて棺が舁き込まれた。草鞋ばきの西田君の姿も見えた。某嬢の独唱も、先輩及友人諸氏の履歴弔詞の朗読も、真摯なものであった。牧師が説教した。「美人の裸体《らたい》は好い、然しこれに彩衣《さいい》を被《き》せると尚美しい。梁川は永遠の真理を趣味滴る如き文章に述べた」などの語があった。梁川、梁川がやゝ耳障《みみざわ》りであった。
彼は棺の後に跟《つ》いて雑司ヶ谷の墓地に往った。葬式が終ると、何時の間にか車にのせられて綱島家に往った。梁川君に親しい人が集って居て、晩餐の饗があった。西田君、小田君、中桐君、水谷君等面識の人もあり、識らない方も多かった。
新宿で電車を下りた。夜が深けて居る。雨は止んだが、路は田圃《たんぼ》の様だ。彼は提灯《ちょう
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